先天性疾患について
赤ちゃんは3−5%に何らかの異常をもって生まれて来ます。その中には、染色体疾患、Copy number variants、単一遺伝子の変質から治療をすれば治る疾患(多因子遺伝)まで様々です。
染色体疾患:染色体検査で診断できる大きさの数的、構造の異常
Copy number variants:1つの染色体の一部分の欠失や重複などの異常によるもので、染色体検査では検出されない大きさの異常
単一遺伝子の変質:染色体を構成している遺伝子の一部の変化によるもの
多因子遺伝:いくつかの遺伝子の要因と環境の因子の影響等で起こる異常(口蓋裂、心疾患など治療をすれば治る疾患が含まれます)(染色体や遺伝子は異常ありません)
染色体疾患は先天性疾患の約25%で、そのうち70%がダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーです。これらの3つの疾患は、先天性疾患の約17%で、この3つの疾患に対する検査であるNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は精度の高い検査ですが、先天疾患の約17%しか診断できません。
染色体疾患、Copy number variants、単一遺伝子の変質、多因子遺伝などの先天性疾患の多くは、胎児形態異常(奇形)があります。胎児の形態異常の診断は超音波検査によるため、遺伝学的検査と共に形態学的検査(超音波検査)が先天性疾患の検査として重要です。超音波検査には、初期精密超音波検査、中期・後期精密超音波検査があります。
初期精密超音波検査は染色体疾患、Copy number variants、単一遺伝子の変質に対する遺伝学的検査でもあり、結果によっては妊娠を継続するかを判断する検査です。
中期・後期に精密超音波検査は、主として生まれてくる子どもの準備のために行うものであり、基本的には妊娠を継続するかを判断する検査ではありません。
年齢とトリソミーについて
人の染色体は2本1対(ペア)です。1本の染色体の精子と1本の染色体の卵子が受精して2本の正常な染色体になりますが、年齢が上がるとトリソミーという染色体が3本になる異常の率が上がってきます。
卵子は正常では1本の染色体ですが、高齢になるほど2本になる率が上がってきます。1本の染色体の精子と2本の染色体の卵子が受精すると3本の染色体になるため、高齢になるとトリソミーの率が上がるのはこのためです。
ダウン症(21トリソミー)は21番目、18トリソミーは18番目、13トリソミーは13番目の染色体が3本の疾患です。染色体が3本になるトリソミーの多くは受精のエラーで、21、18、13番以外の染色体にもトリソミーは起こりますが、それらの多くは流産します。高齢妊娠で流産率が上がるのもこのためです。
出産年齢とトリソミーの確率(表)
出産時年齢 | 21トリソミー | 18トリソミー | 13トリソミー |
20 | 1/1441 | 1/10000 | 1/14300 |
25 | 1/1383 | 1/8300 | 1/12500 |
30 | 1/959 | 1/7200 | 1/11100 |
31 | 1/837 | 1/7200 | 1/11100 |
32 | 1/695 | 1/7200 | 1/11100 |
33 | 1/589 | 1/7200 | 1/11100 |
34 | 1/430 | 1/7200 | 1/11100 |
35 | 1/338 | 1/3600 | 1/5300 |
36 | 1/259 | 1/2700 | 1/4000 |
37 | 1/201 | 1/2000 | 1/3100 |
38 | 1/162 | 1/1500 | 1/2400 |
39 | 1/113 | 1/1000 | 1/1800 |
40 | 1/84 | 1/740 | 1/1400 |
41 | 1/69 | 1/530 | 1/1200 |
42 | 1/52 | 1/400 | 1/970 |
43 | 1/37 | 1/310 | 1/840 |
44 | 1/38 | 1/250 | 1/750 |
45 | 1/30 |
例えば35歳で21トリソミー(ダウン症)の確率は1/338(約0.3%)ですが、99.7%はダウン症でないと言う事です。40歳(1/84:約1.1%)でも98.9%はダウン症ではありません。高齢になるとダウン症の率が上がるため心配されますが、決して高い率ではありません。
年齢が若い方は、ダウン症を含めたトリソミーの確率は更に低いですが、NIPTは年齢が若い場合は偽陽性率(異常が無いのに陽性になる率)が上がります。偽陽性の場合不要な羊水検査を受けなければならないため、若い方がNIPTを受けるかは慎重に検討する必要があります。
一方、生まれた赤ちゃんは3-5%に先天性疾患がありますが、トリソミーを持つ確率よりもはるかに高いため、先天性疾患の全体的な検査としては、精密超音波検査が重要です。
NT(首のむくみ)について
妊娠10週〜14週頃、赤ちゃんの首の後ろにむくみが見える事があります。英語でNuchal Translucency と言いNTと呼ばれています。ほとんどは生理現象のむくみで、全ての赤ちゃんに認められ、妊娠14週を過ぎれば小さくなり見えなくなります。しかし、むくみ(NT)が厚いほど、胎児に異常の可能性が高くなると言われています。最も多い異常は21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの染色体異常で、年齢確率以上にリスクが高くなります。また、NT肥厚は先天心疾患や遺伝子異常と関連があるとも言われています。
NT肥厚が無ければ胎児に異常がある可能性は低いですが、初期の超音波検査で形態異常(奇形)や顎が小さい、耳の位置が低い等の所見があれば染色体異常、遺伝子異常等の可能性は否定できません。
NIPTでは胎児異常の約17%である3つのトリソミーしか診断できないため、NT肥厚があれば、NIPTはお勧めできず、確定検査が必要になります。
先天性疾患を調べる検査(出生前検査)について
詳細は出生前診断をご覧ください
非確定検査
- 初期精密超音波検査(初期ドック)
- OSCAR検査(コンバインド検査)
- NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)
- クアトロ検査(妊娠15−17週)
- 中期・後期精密超音波検査
確定検査
- 絨毛検査・羊水検査
胎盤や羊水を採取して、染色体検査や遺伝子検査を行います
- *染色体検査:
- 46本の染色体の数的、構造の異常を調べる検査
- *遺伝子検査:
- 染色体よりも小さい異常を診断する検査
マイクロアレイ検査、エクソーム解析など
染色体検査は正常だが超音波検査で形態異常ある場合、遺伝子検査を行うことがあります